水島くん、好きな人はいますか。
畏怖の念を含んでいた沈黙はやがて、ぱちぱちと不可解な拍手で幕を閉じた。
「さすが幼なじみ。瞬の扱いは誰にも劣らないね」
斜めうしろを見れば、こともなげに机へ腰掛けている島崎くんがいて、彼が拍手を送ってきたようだった。
「こんな状況になった経緯を説明してあげようか」
「……いりません」
教室に踏み込んだときに大体わかった。怒鳴った瞬の言葉を聞けば確信が持てた。そんなことわかっているはずなのに、島崎くんはまた微笑みを代用している。
「なら話は早い。教室に戻りな。邪魔だから」
「……戻りません」
「状況把握してんのにわからない? この喧嘩を止めて、ハイ、次は? なにか解決すんの? 瞬がふたりをかばって事態が動き始めたのに。引き延ばすなんて酷だな」
「わたしはっ、」
「瞬を止めに来ただけ、でしょ。じゃあもうすることはないね。ごくろうさま」
島崎くんは顔の横に手を上げ、ハープを奏するように小指から人差し指を順に折る。その妖艶な“さようなら”は心胆を奪うと共に、癪に障った。
「島崎くんは、噂がやかましいから早く解決してほしくて、そんなことを言うんですよね」
「まーよー? 俺は教室に戻れって、」
「わたしが教室に戻ったら、なにをする気ですか」