水島くん、好きな人はいますか。

目に角を立てると島崎くんは微笑みを消し、ほどなくして机から降りると薄笑いを浮かべた。


「もちろん答えを出してもらう」

「それは島崎くんの役目じゃないと思います」

「噂好きな生徒の代表をしてあげてるんだよ」


近付いてきた島崎くんの視線がすぐ横を通り抜ける。


「なあ、瞬。彼女とその浮気相手をかばったところでお前に残るのって、裏切られたって現実くらいだろ?」

「……っ瞬! 行こう、答える必要ないっ」


わたしがいても構わないことにしたらしい島崎くんから、瞬を遠ざけようと腕を掴む。


けれど瞬は足元に視線を落としたまま、掴んだ腕を揺らしても動こうとしない。


「あのさぁ。噂が立って以降、彼女は瞬の元に現れないのに、かばう意味がわからない。お前が怒るべき相手は、彼女とその浮気相手だと思うんだけど」


にわかに教室がざわつき始めた。

それは島崎くんに同意するささやきに聞こえ、胸の内でくすぶっていた熱が湧き上がってくる。


「大勢の奴らにこーんな注目されてる中で、元サヤに戻りましたー、ってなったとしようか。そしたら今度は博が同情されて、彼女は変わらず悪者扱いだろうな」


そういう点も含めて、瞬はみくるちゃんの答えを待っているのかもしれない。


だけど……。島崎くんの言う通りになったとしても、瞬はそんなことに負けたりしない。


絶対。絶対にみくるちゃんを守ってくれる。
< 272 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop