水島くん、好きな人はいますか。
「瞬ひとりだけに自信があっても意味ないんだよ」
「……、」
「だから浮気されたし、周りの視線とか罪悪感に彼女は耐えられないから、いまだにお前のところへ戻ってこないんだろ」
真綿で首を絞められている気分だ。わたしでさえそうなのに、瞬は動こうともしゃべろうともしない。
「仮に瞬と彼女が別れなくても、より親密な関係を築けるのか疑問だね。博って存在が消えるわけじゃないだろ? もー考えただけでうんざりだよ、俺は」
どうしてなの、瞬。
言い返してよ。『だからなんだ』と。『ほっとけ』と。『お前には関係ねえ』と。なんだっていいから言い返してよ。
嗜虐的な島崎くんの言葉に耳を貸すのなら、わたしが最初からうるさく言ったのに。
……言えばよかった。そうやってわたしは、瞬の気持ちを誰よりたくさん聞けばよかったんだ。
「いい加減にケリつければ? 彼女の答えを待ってんだか知らないけど、手遅れだろ。お前らはもう二度と、前みたいには戻れないんだから」
ぎゅっと握られた瞬の拳が赤くなっていて、泣きたくなった。高ぶっていた感情は喉元まで込み上げていた。
戻れないことなんて、知ってる。
瞬も、みくるちゃんも、ハカセも、わたしや水島くんだって。
喧嘩するほど仲がいいふたりの姿はもう見られない。冗談を言い合える時間はもう作り合えない。みんなでひとつの机を囲んで勉強することだって、もうできないと思う。
即席の祝賀会を開いたときのような。あの青空の下で笑い声を響かせたわたしたちには、もう二度と……。