水島くん、好きな人はいますか。


「なあ瞬。今どんな気持ちかは察するけど、それ、今だけ。お前元カノいるんだから、わかるだろ」

「……」

「今だけの感情に必死になる意味がわかんない……って、聞いてんの? 俺が言ってんのは、早いとこ別れて――」


風船が弾けるよりも鈍い、今まで聞いたことのないような音がした。


当然だ。初めてだもの。生まれてこのかた人を引っ叩いたことなんてなかった。


右の手の平がじいんと痛む。前髪の下から覗く島崎くんの無気力な双眸が、見下すようにしてわたしを捉える。


「なにすんの、万代」

「……もう黙ってください」

「俺は間違ったことを言ったつもりはない」

「そういう考えもあるってだけでしょう」

「なら、なんで叩くわけ? 万代だって元カレなんか忘れて好きなやついるだろ。認めろよ。つらいのも悲しいのも、全部今だけだって。ついでに万代が必死なのも今だけ」

「今だけ今だけってうるさい! それしか言えないの!?」

「……、は?」

「今だからでしょう!? 今しかないから必死なの! 今この瞬間に抱いてる気持ちだから、今向き合わなきゃいけないんじゃない!」


先のことなんて知らない。


多少は考えているけど、それは“これから”っていう漠然としたもので、綿密に事細かには考えられない。


今でいっぱい一杯なんだもの。


悲しくて、つらくて、寂しくて、笑顔がぎこちないものに変わっていくのがわかる。もう嫌だって思う。誰か助けてって思う。投げ出してしまおうかって、思うよ。
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