水島くん、好きな人はいますか。


だけどやっぱり諦めたくない。“これから”を捨てたくない。今どれだけ重くて、暗くて、毒になる感情を抱いているとしても。


自然に笑えた自分に戻りたい。


全く同じじゃなくていいから。向き合って、考えて、乗り越えた先の自分に会いに行きたい。


元気だね、って。楽しそうだね、って。そんな風に言ってもらえた自分の元へ、もう一度帰りたい。


わたしだけじゃないでしょう? ねえ、瞬……。みくるちゃんも、ハカセも、なにひとつ、諦め切れてないでしょう?


みんなが互いを想って動き出せないことを知ってる。


わたしにはどうしても、みんなが幸せになれる最善な形は思い浮かばないけど。


「必死にならない人が、今を諦めてない人をバカにしないでよ……っ」


もがくことが格好悪いなんて、誰が決めたの。


今さらじゃない。絶対に、手遅れなんかじゃない。


「時間は巻き戻せなくたって、これから先、巻き返すことはできます」


島崎くんは無表情になり、手の平はまだ痛みを帯びていた。


不意に右肩が掴まれ、よく知ったその感覚に、胸の奥底が締め付けられる。


視線を上げれば、瞬が。懐かしささえ覚えるいつもの瞬が、わたしを守るように島崎くんと向き合った。


……そうだ。


瞬は戦うことを恐れない。諦めていたわけじゃない。


確かにあった絆を結び直す瞬間を待っていたんだ。
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