水島くん、好きな人はいますか。


「みくるちゃんっ……お願い止まって!」


決して足の速くないわたしが追いつけたのは、下駄箱でみくるちゃんがお願いを聞いてくれたからだった。


呼吸を整える間もなく、みくるちゃんの前へ回り込む。


放心しているのか、頭を整理しているのか。なんの表情もたたえないみくるちゃんは唯一、瞳だけ潤ませていた。


「ごめんなさい……」


吐息に織り交ぜた小さな謝罪と一緒に、俯くみくるちゃんの瞳から涙が零れ落ちた。


「さっき、瞬があたしのこと好きだって言ったとき……っすごく後悔したけど、泣きたいくらい嬉しかった……」


……うん。瞬が人に好きだなんて言うの、初めて聞いた。


「でもっ……、もう、だめだ……って、思った」

「……うん、」

「あたし、本当にっ、瞬のこと、傷付けたんだ……って。なのに瞬は、まだあたしを、好きで……っいてくれて、」


しゃくり上げながら話すみくるちゃんの頬を、何度も涙がすべり落ちていく。


「許してほしいって、言えなかった……。今までは、博の気持ちとか、周りの目を気にしてたからだったけど……さっき、はっきり思ったの」

「……」

「戻れないって……戻っちゃいけないって……だってあたし、瞬のこと、大切にできなかった……っ!」


……瞬だって、そうだよ。

きっと後悔して、それでも待つと決めた。


次はもっと、もっと、大切にしようって。

みくるちゃんとハカセを裏切り者扱いする側には行かないって、決めてたよ。
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