水島くん、好きな人はいますか。


ぎゅうっと強く握り返される、小さなわたしの手。


やっと繋げた、ふたりの手。


……大丈夫だよ。あの日のように泣きながら笑い合えることはできなくても。


失ってしまったものはたくさんあるのかもしれなくて。終わってしまうことも確かにあるけれど。


ひとりじゃない。それだけで、もう一度、始められる。


こんな風に向き合って、手と手を繋ぐように。


ねえ、瞬。わたしたちはそうやって、今日まできたよね。


「帰んぞ、みくる」


瞬が現れ、驚きに目を見張ったみくるちゃんは、差し出されたスクールバッグが自分のものであることに当惑する。


「なんで……」

「今日はもう授業受ける気分じゃねえんだよ。お前こそ、その顔で午後の授業出る気か?」

「……っ瞬、あたし、」

「話なら歩きながら聞いてやる」


わたしはハンカチをみくるちゃんの手に持たせてから1歩下がり、微笑む。
涙で世界が滲むことは、もうない。


「また明日ね」

「……うん。万代、ほんとに、ありがとう……」

「おい早くしろ! 教師に見つかったらめんどくせえっ」


早々とローファーに履き替えていた瞬の元へ、みくるちゃんは駆けて行く。


ああ……久々に見たなあ……。


ふたり並んで昇降口を出ていく後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。


――ばいばい。また、明日。



この日を最後に、瞬とみくるちゃんは恋人という関係を解消した。




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