水島くん、好きな人はいますか。
・さよならはいつも
5月が2週間も過ぎると、生徒たちは下旬にせまった中間テストに気が向き始めていた。
もちろんわたしも例外じゃない。だけど掌を返すより簡単な所作に、毒気を抜かれていたりもした。
停学処分ものに思えた瞬は親の呼び出し、厳重注意で事を終えた。関わった人数が多かったせいかもしれない。
あの日以降島崎くんはなにもしてこないし……瞬と別れ、ハカセとも付き合っていないみくるちゃんと距離を置こうとする人も、教室内には見当たらなくなった。
「ねー。先輩がみくるのこと紹介してほしいって言ってるんだけど、どう?」
「ええ? いやー……ごめん、断ってもらっていいかな」
「だよねえ。訊くだけ訊いてみてって頼まれたからさ。気にしないで」
近くで交わされた会話に気まずさを覚えたわたしは、汚れてもいない手を洗いに行ってでも聞こえないふりをした。
……みんな、順応が早いな。
ここ数日で実感したことがある。先ほどのみくるちゃんといい、女子から声をかけられることが増えた瞬といい、周りが放っておかない。その流れに乗りきれていないのは自分だけのような気がする。
わたしっていつもこんな感じ……。
鏡に映る自分にため息をこぼし、教室へ戻った。
「終了5分前には戻ってくるから、それまでプリント終わらせておくように」
自習になった5限目の授業から代理の先生までもが出て行くと、教室はゆるりと静けさと真逆のほうへ流れていく。
30分はかかるかな。プリント内容を確認し、回答を書き込んでいくことに集中した。そうして残すはあと3問というとき、ふっと立ち上がった人の気配がした。