水島くん、好きな人はいますか。
「うわ。水島もう終わったのかよー」
「見ていい?」
わたしからは背中しか見えないけれど、きっと笑ったんだろう。教室を出て行く水島くんを、男子は明るく見送った。
自習と言えど授業中なのに……。最近の水島くん、サボり癖に拍車が掛かっていると思う。
解き終わったら見直すはずだったわたしはそれをせず、先生が戻ってくるまで窓から3棟の屋上を眺めていた。
携帯を手にしたのは、休み時間に入ってすぐのこと。
≪緊急救助要請≫
そんな件名のメールを送ったのは、わたしのほうだった。
「水島くん」
3棟の屋上から出てきた水島くんは階段を駆け降りる足に急ブレーキをかけ、振り返る。
ドアの横に腰掛けていたわたしが微笑むと、水島くんは状況を呑み込んだらしい。ため息交じりに、
「脅かすなや」
と、隣に座ってきた。
「やっぱり屋上にいた」
「そう言えるんは万代だけじゃなー」
「……先生、またサボりかーって怒ってたけど、終わってるプリント見て悔しそうだったよ」
想像できるのか、ふは、と水島くんは小さく笑った。
それだけ。他のことはなにも訊いてこない。
「だましてごめんね」
「……無事ならそれでよか」
表情をうかがうと水島くんは首を傾けて微笑んでくれる。
「でも焦るから、もうせんで」
細い細い針がちくりと胸を刺し、そのままゆっくり深く押し込まれたような鈍痛を感じる。
罪悪感と、少しの気概と気まぐれな嫉妬が喧嘩して、その痛みを連れてくるよう。
「うん……もうしない」