水島くん、好きな人はいますか。
「うぉおおお……!」
中等部の室内プールを前に、驚きと喜びを混ぜた声を出した水島くんはぐるりと振り返る。
「ほんとに入ってよか……?」
「まあ……はい」
「冗談じゃなく!? いいんかや!? 水泳部じゃないのに!?」
「ちょ、静かに、声落としてください! わたしは部員だからいいけど、水島くんは誰かに見られたら……っ」
忙しなく辺りを見回していたわたしの前に、ばさっと黒いジャージが飛んできた。
「よっしゃー!」
脱ぎ捨てられたTシャツの次に目に入ったのは、プールに飛び込もうとする、水島くんの背中。
ばしゃあん!と激しい水しぶきがあがったのを見れば、引き止める気力は霧散した。
制服のまま連れてこなくて正解だったな……。でもまさか逡巡もせず飛び込むとは思わなかった。
脱ぎ捨てられた上ジャージとTシャツを拾い上げ、プールサイド脇にあるベンチに置いておく。
「あーっ! 最っ高!」
「あんまりバシャバシャしないでくださいっ」
「なんで貸し切り? 泳ぎ放題じゃなーっ」
それをさっき説明しようと思ったのに、聞かずに飛び込むから……。
にこにこ、にこにこ。水島くんはプールに入れて本当に嬉しそう。
「いいですから……もう気にしないで泳いでください。でも長くて2時間だけですからね」
「万代は入らんかや?」
「わたしのことはお気になさらず!」
「えー……」