水島くん、好きな人はいますか。
「もしもしりっちゃ……」
『あーお兄様だけど……』
同時にしゃべり出した相手の声は低く、それでなくとも確かに“お兄様”と聞こえた。
『……うーん。俺をりっちゃんと呼ぶなら、りっちゃんに違いはないけども』
「すいません……! あの、りっちゃ、友達かと思って、あの、代わりに出てしまい、ごめんなさ、」
『ハイまず落ち着いて。そのまま、そのまま。りっちゃんってことにして、お話しよーよ。京のやつ近くにいる?』
パニックになりかけている頭で言われた言葉を繰り返し、さきほどより近くにいるものの、水島くんはまだプールに入ってこちらを目指している。
「えっと、15メートルくらい離れた場所に」
『オーケーオーケー。適当にごまかしといてっ』
「えっ!? あ、いや、ちょっと話しててもいい!?」
最初の驚き以外は、立ち止まり不思議そうにわたしを見た水島くんに向けたものだった。
うんと頷いた水島くんはプールの底へ潜っていく。
安堵のため息をつけば電話の向こうから、『平気?』とくすぐったい笑い声が届いた。
「急になにをさせるんですかっ……!」
思わず言われた通りにしちゃったじゃない!
『だって俺、京の友達と話したことないんだもーん。しかも女子! いやいや眩しかね女子高生! これは律(りつ)様じきじきにインタビューするしかないじゃんっ!?』
この人は本当に水島くんのお兄さんなのか急に不安になってきた。