水島くん、好きな人はいますか。
「経験したことがないのでわかりませんけど……そうしなきゃ揺らぐ覚悟とか決意があるんだろうなって思います」
電話の向こうでこくり、息を呑む気配を感じた。
「水島くん、医者になるのが夢なんですよね? 変えたい運命があって、ピアスはお兄さんから話を聞いて開けたんだって、そんな風にも言ってましたよ」
『京が? ……嘘じゃろ。夢のことまで話すとか』
意外そう。本当に水島くんに友達がいないと思ってたのかな。どんな様子かも知れずにいたのなら、想像することしかできなくて、心配したり不満を抱いたりするのかも。
お兄さんだけじゃなくて……きっと向こうの友達も、同じかもしれない。
「水島くん、よく屋上でサボって、たまに閉じ込められちゃうんですよ。高いところが好きだって、……懐かしそうに、遠くの空をよく眺めてます。自室の天窓から星を眺めるのが好きだったって話してくれたこともありますよ。こっちはあんまり星が見えないから……プラネタリウムに行ったときはすごく喜んでました」
目を閉じても、水島くんを見ても、思い出せる。それはとても素敵なことなのに、どうしてだろう。
ひとり懐かしそうに目を伏せる姿も、私たちといて笑顔を絶やさない姿も、思い出すたび胸が、痛くて。
「瞬が……水島くんの友達が、言ってましたよ。水島くんは転校してきたころとずいぶん変わったって。たまに、そのころに戻るって。無理して笑わなくていいのにって言いながら、アイツの勝手だけどって」