水島くん、好きな人はいますか。
「電話終わっちょー?」
通話時間27分と表示された携帯をポケットへ戻し、プールに足を浸けたわたしの元へ水島くんがやってくる。
「りっちゃんなんて?」
「……すいません。お兄さんでした」
「はっ!?」
「“りつ”ってだけ表示されたから、りっちゃんだと思っちゃって」
「え、なん、律っ……、は!? 兄貴と話しちょったん!? 今までずっと!?」
うん、と一度だけ頷けば水島くんは頭を抱えてしまった。
「なに話した、いや聞きたくなか! 変なこと言われちょらん!? 気色悪かったじゃろ!」
「水島くんのこと心配してる、いいお兄さんだったよ?」
「そういうんじゃなくて!」
「……なーんて兄貴風を吹かせてみる俺、かっこいい」
「まだそぎゃんこと言っちょるんか……」
一瞬でげっそりした水島くんは今すぐお兄さんに折り返す気はないらしく、「台無し」と口を尖らせた。
「なにが?」
訊けば、水島くんはプール内の壁に寄りかかる。
「せっかくすっきりしたんに、兄貴のせいで台無し」
「……まだ泳ぐ時間あるよ?」
じゃぶじゃぶとバタ足をしたわたしに視線をよこした水島くんは、微笑んでくれる。
なにも言われず見つめられるの、苦手なのに……。
水島くんが相手だと、ずっと見つめ返していたくなる。すぐ羞恥心が勝るから、黙ってはいられないのが難点。