水島くん、好きな人はいますか。
黙って引っ越してきた自分さえ、向こうの友達に嫌われてしまっているかもって、不安?
「髪直さんでよか? ほどけちょーよ」
繰り返された攻防戦がやっと終息を迎えたころ。ダッカールからこぼれた落ちた小指ほどの髪の束が、水島くんの手によって耳にかけられる。
そんなことをされて、
「万代の髪、濡れてもふわふわしちょってかわいかね」
そんなことを言われても、にじり寄る喪失感を振り払えなかった。
胸はときめくことを忘れず、心は引き寄せられたままでも。積もった想いに差した影は、どこまでも拡がっていく。
「万代? ……どした?」
かち合った視線に友達以上の意味はない。目が合っただけで嬉しさと苦しさを感じているのは、わたしだけ。
そうしていつだって、言葉を呑み込んでいた。
訊いても仕方ないって。今はまだいいやって。1年生のあいだは同じクラスなんだし……って。
「……水島くん」
「うん?」
呑み込んでいたの。名前を呼ぶたびに、笑顔を見るたびに、はじけて消えていたのは、仕舞いの言葉だったから。
「好きな人は、いますか」
はじけて消えずに届けたそれは、さよならへのカウントダウン。
当然のように梅雨が明け夏が来て、秋と冬を迎えると思っていたわたしの世界は、温度を変えた。
水島くんの瞬きひとつで、あっけなく。