水島くん、好きな人はいますか。
「好きなやつがいるって?」
「…………、」
鍵を開けるのに手間取っていると、お隣さんの戸口から刺々しい顔つきが出てきた。
「瞬、おかえりくらい言ってほしい」
「好きなやつがいるって?」
聞いちゃいない瞬にどう対応しようかと考え、地面に置いていた荷物を持って自宅へ逃げ込んだ。
「おい万代!」という瞬の怒りはひとまず戸口で遮断し、急いで濡れたジャージを洗濯機へ突っ込んだあと、うがいと手洗いもしておいた。
素知らぬ顔で洗面所から出ると瞬が仁王立ちで待ち構えていたので、証拠隠滅済みのわたしは平静を装い「不法侵入」と言えた。
「シカトこいてんじゃねえぞ」
人の話しを聞かないのはいつも瞬のほうだけれど、
「瞬、わたし、着替えたいの」
そう言えば不満げな顔で立ち止まってくれた。まるでようやく『待て』を覚えた犬みたい。
自室のドアを閉め、しゅるりとスカーフをほどく。
――なんっでバレてるんだろう……!
クローゼットに手をつき項垂れるわたしの背中を、玉のような汗が這っていく。
実はわたしってすごくわかりやすいとか!? 誰から見ても一目瞭然!? そんなバカな……!
瞬の行動から推測すると、今日知って待ち切れず詰め寄ってきた、って感じだった。
だけどいつ、どうやって知ったの?
「……島崎くんめ」
思い浮かんだ人物はその人だけ。