水島くん、好きな人はいますか。
「なに……お前、ふつう忘れるか? 叶に思いっきり平手打ち食らわせただろーが」
「え、や、忘れてないけど……人前で言ったってなに?」
「はあ? だから、お前が引っ叩いたあと、叶のやつ『なんで叩くわけ?』って言っただろ。『万代だって好きなやついるくせに』って」
「…………」
「うわ、覚えてねえのかよ」
今ばっちり思い出したけど忘れたままでいたかった。
「お前は聞き流せたのかもしんねえけど、俺は違うぞ」
でしょうね……。わたしは自分の愚鈍さにあきれるっていうか、布団の中で丸まって泣きたい気分だ。
「うぬぅううううううう」
「今さら喚いても後の祭りだ、諦めろ」
島崎くんに画面いっぱい≪呪≫って連打したメールを送りつけても許されるだろうか。
「叶のことは気にすんな。あの瞬間むかついたってだけで、誰が好きなのか言いふらす気もないみてえだし」
みそ汁だけ新しく作った夕食を食べながら、向かい側に座る瞬が言った。わたしはすっかり否定する気が失せていたけれど、耳を疑った。
「まあ、万代の好きなやつなんて誰も興味ねえだろうけどな」
くっ、と腹正しい笑い方をする瞬はいつも通りでも、違和感が拭えない。
「それだけ……?」
反対しないの? やめろって、言わないの?
「変だよ。瞬じゃないみたい」
惑うわたしを差し置き、空になった椀を皿に重ねる瞬は口の端をあげた。