水島くん、好きな人はいますか。
「俺、学校辞めっから」
そう聞かされても、わたしは笑みをたたえたまま。
「つってもただの転校な。ついに別居すんだわ、親。離婚じゃねえのかよって思ったけど、とりあえず俺は親父についてくことになったから」
だんだんと自分の顔から笑みが消え、こわばっていく。
腰を上げた瞬は、重ねた食器をシンクへ運んでいく。
「夏休みに引っ越すから、まあそれまでよろしく」
……な、にが? なにを言ってるの?
“それまで”ってなに? “これからも”じゃないの?
カチャカチャと音を立てながら、シンクに食器を置く瞬を見ていることしかできない。
なにかは考えているはずなのに、思考はぐるぐるとかき混ぜられ、整えられるどころか濁っていくよう。そして顔を上げた瞬と目が合ったことでようやく透き通り始める。
「待ってよ……だって、」
そんな雰囲気はなかったじゃない。普段通りご飯を食べて、話して、今日は久しぶりに、笑い合えて……。
いつ決まったの? 急な話じゃないの? ……だから、過保護は卒業するなんて言ったの? なによ、それ。
嘘だって言って。冗談だって、言って。
見つめてくる瞬は、続く言葉を待っていた。静かに、じっと。わたしのように狼狽の色など露ほども出さずに。