水島くん、好きな人はいますか。
だけど想像できないんだよ。
幼なじみなんだよ? 4歳のころから一緒にいて、歩いて1分もしない距離に住んでるんだよ?
お隣さんでもなくなって、毎朝バスに揺られて登校することもなくなって、学校でもマンションでも瞬の姿が見られなくなる。
そんな日が来るのは、もっとずっと先のことでしょう?
「いやだ……瞬、」
俯くと、ぽたりと涙が膝に落ちた。
「どうして、急に、こんな……」
両手で顔を覆ったわたしに近づく、瞬の気配。
「万代」
「瞬もいなくなるの?」
肩に置かれた手に顔を上げる。はらりとまた涙が落ちたあと、戸惑いを滲ませる瞬と目が合った。
「瞬まで、いなくなるの?」
「誰の話して……おい、万代?」
前屈みになったわたしを止めようとする瞬の手を掴んだ。ぎゅっと、目を瞑るより強く。
「水島くんも転校するんだよ……!」
嗚咽を我慢した声は、情けないほどに震えていた。
「今日、偶然お兄さんと電話で話して……水島くんに内緒で、教えてくれて……」
もう話したくないって思ったわたしの気持ちなど知るよしもないお兄さんは、電話をやめてくれなかった。
――『……京が万代たちに心開いちょって、なにより万代たちが京のこと好いちょるって言うなら、教えとく』
聞きたくなかった。あの瞬間は本当に、心の底から、聞きたくなかったと思った。