水島くん、好きな人はいますか。

――『夏休みが明けたら、京はもう、そっちにおらん』


水島くんは帰る。生まれた場所へ、育った場所へ。


――『京はまた、黙って行こうとしちょるから。……万代と話さんかったら、俺もほっといたんじゃけど。やっぱ、なぁ……綾たちと同じ顔させるんかと思うと……。ごめんな。愚弟のぶんも謝るけん』


返事はできなかった。理由を訊けなかった。なにも、考えられなかった。


「水島くんは、誰にも言わないで転校しちゃうんだって」

「なんで……」


どうしてだろうね。わかってるはずなのに、あやふやにして消してしまいたくなるんだ。


だって、どうせ水島くんは行ってしまうもの。


幾度も空を眺め、想いを馳せた彼女の元へ。



「瞬は……話してくれて、ありがとう……」

「……もう駄々はこねなくていいのかよ」

「……行かないで」


掴んだままだった手をぎゅうっと握ると、やがて瞬は頭を抱き寄せてくれた。


「京にも同じように言ってやりゃあいいのに」


言えないよ。訊いちゃったんだもん。黙って地元に戻ろうとする水島くんを前に、我慢できなかった。


わたしは彼にとって、転校先でできた新しい友達のひとりにすぎないって思ったから。悔しくて、悲しくて。


好きな人はいますか……って。訊いちゃったんだよ。
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