水島くん、好きな人はいますか。

・据え置く想い



中間テストは散々な結果だった。化学のテスト中なんて、どんなに考えても答えが出なくて泣けた。テストとは無関係のことに思考を奪われて泣けた。先生に見つかって、どうしたんだって答案用紙ごと保健室に連れて行かれもした。


散々だったこの日を、わたしは大人になっても覚えていると思う。



6月初旬、梅雨入りが発表された。


雨をしのげない屋上に水島くんは行っておらず、教室にいるときは、ぼうっと空を眺めることが多くなった。


心ここに在らざれば視れども見えず。そんなことわざが当てはまるようで、正視するにはしのびなかった。


夏休みまで、2か月を切っている。


実際は7月上旬に期末テストがあり、終わったらテスト休みに入るから……残された時間は1ヵ月と2週間弱。


瞬ともあれから例の話をしていない。


悠長だな、わたしも。なにをするわけでもなく、ただただ悲しんでいるだけで。こんな状態のまま夏休みを迎えたいわけじゃないのに、ふたりとも転校は取り止めるかもしれないって、まだ夢を見てる。



「万代? どうしたの、手のひらなんか見て」

「……みくるちゃん、痩せた?」

「えっ、ほんと? そう見える?」

「わたしも痩せたいなー」

「ええ? 必要ないじゃん。ダイエットの悩み?」


うん、そうなの。わたしは笑顔で嘘をつく。


嘘が本当になればいいと思った。だけど目や耳や心を据え置いてるだけのわたしには、嘘も夢も実現させるだけの力なんてなかった。


そんなわたしをあてにするようなメールが届いたのは、金曜日の夜のこと。
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