水島くん、好きな人はいますか。
「後悔すると思ったんだよね」
「……後悔、」
「毎年祝ってたのに今年は無視することになるのかなって考えたら、それは嫌だなあと思って」
そのときを思い返す風なハカセに、食べている途中だったチョコレートケーキに目線を移した。
そういう話はまだ、胸が痛む。
わたしは瞬とも、みくるちゃんとも、ハカセともしゃべれるけど……3人がそろうことは、あれ以来ないから。
「みくるも戸惑うだろうし、僕自身、気が引けるのも本当なんだけど……僕だけだからね。なにもしなかったのは」
ケーキを口に運んでから視線を注ぐと、ハカセは続ける。
「前に、叶くんの話をしたよね。このまま忘れてほしいって言うマヨマヨに、僕はそうだね、受け流すのがいいと思うって。そのあと、みくるも叶くんにいろいろ言われてることは知ってたんだ。知ってたけど、なにもしなかった」
「……それは、ハカセの優しさじゃないんですか」
自分が出たらもっと悪化するかも、って。無関係を装って傍観していたとは思えないよ。
「万代は誰でもいい人にしちゃうね」
ふっとおかしそうに笑うハカセの眉は、いつかのようにハの字になっていた。
「守るべきだった。瞬がクラスメイトを殴ったように、万代が叶くんを引っ叩いたように。……僕は瞬を裏切ることになってでも、みくるを望んだのに。なにもしないなら、つらぬく気がなかったのと同じだって思ったんだ」