水島くん、好きな人はいますか。

「で、今日はケーキを食べに行けば完璧って寸法ですわ」

「だから放課後空けといてって言ってたのか!」


なにケーキ食べる?とふたりが喜色満面の笑みを浮かべる中、意を決して後ろ手に隠していた紙袋を差し出す。もちろんみくるちゃんは目を点にさせた。


「え、なに? どうしたの、それ」

「……ハカセから、預かったの」


ちょっとだけ、瞬からのプレゼントかもしれないって思わせちゃったかな。


「いらなかったら捨てて、だって。あと……16歳おめでとう、って」


伝言をそのまま伝えると、動揺を隠せずにいたみくるちゃんの目が潤んだ。次の瞬間には困ったように笑っていたけれど、そうするしかなかったのかもしれない。


紙袋を受け取ってくれたみくるちゃんは、


「ありがとう……って、メールしとく」


力ない笑みをたたえ、それでもハカセからのプレゼントを大事そうに抱えた。


その姿を見て、どうしたって痛む心の一部がある。


だけど大事に抱えられたその紙袋のように、自分の気持ちも相手の気持ちも見て見ぬふりをするんじゃなくて、そっと寄り添ってみたら、痛み以外のなにかを感じ取れることもあるかもしれない。


ハカセがみくるちゃんへ贈ったプレゼントが、ラブレターに思えるみたいに。受け取ったみくるちゃんは後悔の横に、新しい感情を芽生えさせているかも。


……わたしは?


ゆらりと教室を見渡した視線の先には、水島くんのいない席だけがあった。

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