水島くん、好きな人はいますか。




今日はずいぶん雨足が強く、風も台風並みに強い。

傘が壊れないか心配しつつ机の上を片付けていれば、


「ついてくんじゃねえよ! 他のクラス行けっ!」


と、瞬に次いで島崎くんも教室に入ってきた。


全身が寒気立ったのは彼に平手打ちをしてからというもの、顔を合わせていなかったからだ。


島崎くんを追い払った瞬は、通りすがりに固まるわたしへ「おう」と声をかけ、水島くんを呼んだ。


「京。辞書貸せ、辞書」


それより瞬、島崎くんが真横に立ったっぽいんだけど。


感じる視線にそろりと顔を上げる。思った通り、生気のない瞳を持つ彼がわたしを見下ろしていた。


「シ、ノ……ザキく、」


急に顔を覗きこまれびくりと体を揺らすと、彼は口元をゆるませる。


「今、俺のことなんて呼んだ?」


しまった。名字で呼んだら髪の毛をむしられる……!


「いいね。シノって呼ばれるのも悪くない」


さっと髪の毛を押さえたわたしは、目を白黒させる。


「シノって呼ぶなら、引っ叩いたことは許してあげる」


それは助かる。いや、許してほしいとは思ってない。思ってないけど……。


「なにを企んでいるんですか」


微笑みだけ浮かべる島崎くんの目論みが、拾えない。常にそうだ。自分を正直者だと言う彼はそれでいて、質問には答えてくれないことが多い。
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