水島くん、好きな人はいますか。
◇
今日はずいぶん雨足が強く、風も台風並みに強い。
傘が壊れないか心配しつつ机の上を片付けていれば、
「ついてくんじゃねえよ! 他のクラス行けっ!」
と、瞬に次いで島崎くんも教室に入ってきた。
全身が寒気立ったのは彼に平手打ちをしてからというもの、顔を合わせていなかったからだ。
島崎くんを追い払った瞬は、通りすがりに固まるわたしへ「おう」と声をかけ、水島くんを呼んだ。
「京。辞書貸せ、辞書」
それより瞬、島崎くんが真横に立ったっぽいんだけど。
感じる視線にそろりと顔を上げる。思った通り、生気のない瞳を持つ彼がわたしを見下ろしていた。
「シ、ノ……ザキく、」
急に顔を覗きこまれびくりと体を揺らすと、彼は口元をゆるませる。
「今、俺のことなんて呼んだ?」
しまった。名字で呼んだら髪の毛をむしられる……!
「いいね。シノって呼ばれるのも悪くない」
さっと髪の毛を押さえたわたしは、目を白黒させる。
「シノって呼ぶなら、引っ叩いたことは許してあげる」
それは助かる。いや、許してほしいとは思ってない。思ってないけど……。
「なにを企んでいるんですか」
微笑みだけ浮かべる島崎くんの目論みが、拾えない。常にそうだ。自分を正直者だと言う彼はそれでいて、質問には答えてくれないことが多い。