水島くん、好きな人はいますか。

「真綿で首を絞められている気分です」

「それより辞書を借してほしいんだけど」

「ふざけんな許すか。万代は俺に貸すことになってんだよ」


と、瞬がそばに来たと同時に島崎くんを睨んだ。しかし島崎くんは鼻であしらい、動じない。


「瞬は水島に借りるんだろ。2冊も借りるとか意味不明」

「てめえは他のクラスで借りろっ」

「命令されたくないし、先に万代を指名したのは俺だよね」

「自分に指名権があると思ってんのか。万代の半径10メートル以内に近づくんじゃねえよ」

「10メートルって。クラスが隣の時点でアウトじゃん。もっと考えてからしゃべりなよ。バカに見えるから」

「はあ!? てめえこそ、どういう神経して万代に話しかけてんだよ!」


なにこれ……逃げたい。

反応する隙も与えてもらえないんだけど……。とりあえず辞書が必要なのね? 


取りに行こうと思った矢先、


「ふたりともうるさい」


水島くんが呆れ顔でやってきた。


「うるさいとはなんだ。教師か。静かにしなさいってか」

「一般論。……で、俺はどっちに貸せばいい?」

「俺は万代に借りるからいらねえ」


いいけど、わたしの意思は訊く気もないのね。


水島くんはちらりと島崎くんに視線を移す。


「貸せるけど……どうする?」

「じゃあ借りようかな」


え、借りるの?
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