水島くん、好きな人はいますか。
「お前1回、眼科行け。異常だ、その泣きっぷりは」
「泣ふ、泣いてなひ……」
「そうかよ。汗と鼻水が目から出てんのかよ。きたねえな」
「汚くないもん……きれいだもん……」
「わかったから拭けっつーの! もう箱ごと持っとけ!」
投げられたティッシュの箱がぼこっと頭に当たる。痛かったけどなにも言わず鼻をかんだ。
「お前これからどうすんの」
対応に惑う表情の瞬は、それでも訊いてくる。
「京に告らねえのか」
「……、すると思う?」
しないよ。
好きって思う。なれるものなら彼女になりたいって思う。彼の特別になればできることも、したいって思う。
だけど、水島くんには好きな人がいるから、とか。ふられたくないから、とか。そういうことを抜きにしても、告白する気にはなれなかった。
もし水島くんに好きな人がいなければ。転校だってしなければ。結果も目に見えていなければ。
告白するのかもしれない自分を想像したって、空想の世界じゃ、心さえ借りもので。
「わたしはきっと、いちばんどうしようもないことを願ってるよね」
「……離ればなれになりませんように、ってか」
願ったって、叶わないよね。
肌をつたう一粒の滴は体温よりも熱く、乾くまでずっと、涙であることを主張し続けていた。
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