水島くん、好きな人はいますか。
・行き止まりお断り
体育を終え、みくるちゃんとクラスメイトふたりと教室に戻るわたしはひとり、上の空。
しとしと。ざあざあ。風が吹くたび雨は向きを変え、音も変わる。
くすくす。ふふふ。しゃべるみくるちゃんたちの姿容を見つめる。
くるんと上へ向けられた睫毛。きれいにブローされた髪の毛。色つきのリップが艶めく唇から発せられる笑い声もどこか、色付いている。
マスカラくらい塗れば、わたしでも可愛いって思ってもらえるかも……なんて。
「なんか騒がしくない?」
ひとりが言った通り、D組付近の廊下には生徒が行き来したり立ち止まったりして、いつもより騒がしく思えた。
「ちょっとちょっと! 大ニュース!」
体操着をロッカーにしまって教室に入ると、クラスメイトの女子が駆け寄ってくる。
「京くんが、」
「ええええ!?」先に廊下から上がった複数の声にクラスメイトが振り返った。
……まさか、転校することがバレた?
再びわたしたちに見向いた彼女の声を聞き洩らさぬよう、耳を澄ます。
「京くん、ついに停学だって」
「えっ!? マジで!? なんで!?」
「――停、学……?」
みくるちゃんたち3人がこぞって驚く中、わたしはぽつりと事実を呑み込み、ざっと教室内に視線をめぐらせる。
遅刻はしたけど朝礼には出た水島くんの姿はない。