水島くん、好きな人はいますか。
「地元の、高校に……。どうしても今、戻りたくて」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
あとからあとから零れ落ちる涙の理由は、教えてくれた嬉しさと、直接聞いてしまった悲しさ。
「夏休み入ったころには、引っ越すことになっちょる」
……うん、知ってた。化学のテスト中に思い出して泣いちゃったくらい、ショックだったよ。
「ごめん……今まで黙っちょって」
首を左右に振ったわたしは下唇を噛み、嗚咽だけはこらえた。喉の奥が痛くて、痛くて、水島くんの顔も見られなくて、頬だけを濡らし続けた。
もう後戻りはできない。泣きながらでも、進まなくちゃ。
わたしの横顔を隠す髪が、そっと、ためらいがちによけられたとき。ぎゅっと胸が縮こまり、次の瞬間には想いが溢れていた。
「泣かんで……」
眉を下げた水島くんが揺れる瞳で見つめてくる。
本当はね、声をあげて水島くんを困らせるくらい、わんわん泣きたいんだよ。
でもそんなことしない。水島くんの前では、しないの。
「話してもらえて、よかった」
だからそんなつらそうな顔しないで。
わたしはもう、黙って去られる側にはいないんだもん。
きっと笑顔で送り出してみせるから。負けないくらいの笑顔で、旅立ってみせて。
「水島くんが引っ越すなら、やることは決まってるよね」
俯き1歩下がったわたしは、適当に涙を拭ってから顔を上げた。
まだ思い惑う様子を消せていない水島くんに笑いかける。
「もう一度みんなで、遊ぼうよ」
送別会なんて名目じゃ悲しいから、いつも通り、前みたいに、ちょっとだけ豪華に、遊びにいこう。胸に負った傷と芽生えた想いを手放すことなく、笑い合おう。
そうするのは、わたしたちが友達だからって理由で、充分でしょう?