水島くん、好きな人はいますか。

「地元の、高校に……。どうしても今、戻りたくて」


ぽろぽろ、ぽろぽろ。
あとからあとから零れ落ちる涙の理由は、教えてくれた嬉しさと、直接聞いてしまった悲しさ。


「夏休み入ったころには、引っ越すことになっちょる」


……うん、知ってた。化学のテスト中に思い出して泣いちゃったくらい、ショックだったよ。


「ごめん……今まで黙っちょって」


首を左右に振ったわたしは下唇を噛み、嗚咽だけはこらえた。喉の奥が痛くて、痛くて、水島くんの顔も見られなくて、頬だけを濡らし続けた。


もう後戻りはできない。泣きながらでも、進まなくちゃ。


わたしの横顔を隠す髪が、そっと、ためらいがちによけられたとき。ぎゅっと胸が縮こまり、次の瞬間には想いが溢れていた。


「泣かんで……」


眉を下げた水島くんが揺れる瞳で見つめてくる。


本当はね、声をあげて水島くんを困らせるくらい、わんわん泣きたいんだよ。


でもそんなことしない。水島くんの前では、しないの。


「話してもらえて、よかった」


だからそんなつらそうな顔しないで。

わたしはもう、黙って去られる側にはいないんだもん。


きっと笑顔で送り出してみせるから。負けないくらいの笑顔で、旅立ってみせて。



「水島くんが引っ越すなら、やることは決まってるよね」


俯き1歩下がったわたしは、適当に涙を拭ってから顔を上げた。


まだ思い惑う様子を消せていない水島くんに笑いかける。


「もう一度みんなで、遊ぼうよ」


送別会なんて名目じゃ悲しいから、いつも通り、前みたいに、ちょっとだけ豪華に、遊びにいこう。胸に負った傷と芽生えた想いを手放すことなく、笑い合おう。


そうするのは、わたしたちが友達だからって理由で、充分でしょう?

< 343 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop