水島くん、好きな人はいますか。
「2時間くらい? 時間忘れちゃってたよね」
買い物リストとは勝手がちがって、生きるために必要なものはスケールが大きかったように思う。
「ていうか万代さ、なんでそんなに離れてるのよ」
ディスカッションの様子を思い返していると、1メートルは離れていることを突っ込まれた。
「だって、なんか恥ずかしいんだもん」
「水泳部がなに言ってんのよー。意識してるほうが恥ずかしいって!」
「そうだけど……」
裸と水着のちがいは大きいと思いますっ! それにみくるちゃん細いし、胸もあるし……うらやましい……。
浴場をあとにし玄関ホールへ来たら、階段の手すりに寄りかかる瞬がいた。
「ちょっと付き合え」
食堂のあるほうを指した瞬から、みくるちゃんを見遣る。
「えっと、じゃあ、わたしは先に戻ってるのでっ」
緊張から敬礼なんてしちゃったのに、背を起こした瞬は迷うことなくこちらへ歩を移してきた。
「おい万代。男子の部屋に遊びに行こうなんて考えんじゃねえぞ」
「そんなこと考えつきもしませんでしたが」
「なら良し」
「……、頑張れ」
通りすがり、おもむろに差し出された瞬の手に触れ、何食わぬ顔で階段をのぼる。
振り返ると、瞬とみくるちゃんは並んで歩いていた。
もう二度と見られないと思っていたその光景を、最後まで見届けることはなかった。