水島くん、好きな人はいますか。


2階建ての常磐寮は、玄関ホール正面にある階段を上ると左右に部屋が別れており、男女ごとに振り分けられる。


みくるちゃんとわたしと相部屋である2年生3人の姿はなかった。きっと自由参加のレクリエーションをしに大広間にいるんだろう。


わたしは髪を乾かしたり、今日撮った写真を眺めたりして時間を潰し、頃合いを見て部屋を出た。


廊下の窓からは、寮の裏手にあるテニスコートが見える。あとは木々と、星空だ。


明日も晴れるみたいだし、よかった。


「あ、おかえりっ」


5分近く経ったころ、みくるちゃんが戻ってきた。


「ただいまー」


へらりと笑ったみくるちゃんのそれは歩く速度で消えていく。立ち止まったみくるちゃんは俯き、抱きついてきた。力なんて少しも入ってなくて、言葉もなくて、ただすり寄るだけの行為は、ぬくもりと一緒に寂しさをも膨らませる。


目が、赤かった。……聞いたんだね。話したんだね、瞬。


「ごめん……」


ずっ、と鼻をすすったみくるちゃんは離れ、涙を拭った。


「あたし、すぐ泣いて……嫌んなるよね」

「それを言われたら、泣きすぎてティッシュの箱を投げ付けられたわたしはどう答えたらいいの」

「あはっ、なにそれ……っおかし、」


笑いながら滲む涙を堪え切れないみくるちゃんは、両手で顔を覆ってしまう。
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