水島くん、好きな人はいますか。

「本当、なんだよね……?」

「……うん」

「京だけじゃ、なくて……っ瞬も、」

「……うん」


会話はそこで途切れてしまった。


みくるちゃんが鼻をすするたび、熱い吐息をもらすたび、声にならない悲しみが、わたしにまで流れ込んでくるよう。


……急に転校するなんて聞かされても、混乱するよね。


どうして今日になって言うの、って思ったかな。もっと早く言ってくれたら……とか、思ったかな。


在るのは現実だけで、急でもなんでも受け入れるか拒むしかなくて、わたしはそれがつらかった。


この現実を変える力を持っていなくて、苦しかった。


でも少し過去をさかのぼってみたら、持ってるんじゃないかなって思えた。


答えは、未来のわたししか得ることはできないけれど。


信じて疑わないことなら、今のわたしでもできる。


「みくるちゃん。……聞きたくなかった?」


数秒の沈黙のあと、みくるちゃんは頷いた。


「でも、話してくれたのが今日でよかったって、明日になれば絶対、思うんだろうな」

「……」


強がりでも、強がりじゃなくても、こんなに早く、自分がそう思えるって言えるみくるちゃんをすごいと思った。


「だってさ、こんなところに来ちゃってるんだよ? もう楽しむしかないじゃん」


目を赤くしたまま、白い歯を見せて笑ったみくるちゃん。


あの瞬が好きになる人だけあるなあ……。


何度かそう感じたことはあるけど、ことさら強く思えた夜だった。
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