水島くん、好きな人はいますか。
深い谷間を流れる渓流を眺めつつ橋を渡っていると、
「ひとりで歩いちゃダメだよ」
「……、すいません」
追って来たハカセに見向くと同時に、水島くんと瞬とみくるちゃんが揃ってついてきているのを確認した。
「万代は優しいね」
「えっ!? いえそんな、え、な、なにがですか?」
くすりと笑ったハカセに、下手な言い訳なんか続ける気になるはずもなく。
うわあ……バレちゃってるよね。少しみんなだけにさせておこうって思ったこと、余計なお世話だったかなあ。
「大丈夫。京もいるし、ふたりともふつうに話せてる」
「……やっぱり、ハカセも」
「うん、聞いた。まさか瞬までとはね」
浴場で話されたから、京の叫びがすごく響いたんだよ。とハカセは言い足す。
「ハカセもびっくりしましたか」
「そりゃあね。でもライバルだって言われたことのほうがびっくりしたかな」
ライバル? 復唱してから意味に、瞬の想いに、気付く。
「お前らいつまでぎくしゃくしてんだ、ってね。自分がいなくなれば変な気を遣わずに済むだろ、って……『みくるにアタックし放題じゃねえか、クソが』なんて言いながら、顔にお湯をかけられたよ」
そのあと、してやったりって顔でハカセに笑いかける瞬が脳裏に浮かぶ。
胸が潰れそうになったのは、瞬は転校するまでの話よりも、自分が転校したあとの話を多くしたと予想できるから。