水島くん、好きな人はいますか。
色とりどりの感情が心を染めるのに、ひとつだって言葉にできない。表情にもうまく託せなくて、きっとわたしも、ハカセと似た顔をしているね。
「瞬は、人のことばっかりだ……」
眉根を寄せながらも、ハカセの口元は笑っていた。
細めた眼には今にもこぼれそうな淡い光が差し、嘲りの影を溶かそうとしていた。
「……わたしは、瞬がそうできる友達が、ハカセでよかったって思います」
瞬はまだ、みくるちゃんのことが好きだと思う。
だけど、みくるちゃんを好き同士、ハカセとは対等で明け透けな関係でありたい気持ちもあるんだろうなって思う。
ふたりのことが大切で、特別で、大好きだから。そんな風に思える人にやっと出会えた、瞬だから。
自分から絆を諦めることはやめたんだ。
それならわたしはいつだって、何度だって、瞬の背中を押してあげたい。
「わたし、瞬の大切な人と友達になれてよかったです」
たしかに世界が変わった。見える景色も、感じる気持ちも、交わす言葉も。少しも自信がなかった中学生のころより、ずっと。
「……僕もだよ」
ありがとう、万代。
ぽつりとこぼされた想いは、聞こえるせせらぎと一緒に胸の中へ流れ込んだ。