水島くん、好きな人はいますか。
「……泣き虫、じゃな」
ゆるく驚きを消した水島くんは、ひと呼吸置いてから話してくれた。
「よく怒るし、よく笑う。勉強は苦手で、楽しいことが好きで、俺と一緒に問題児扱いされちょった」
水島くんが拳で隠した口元は、懐かしさにほころぶことはない。
「友達とか、家族とか、大事にするやつだけん。自分のこと以上に他の人のことを考えちょるけど、実は寂しがり屋で、そのくせ強がりで、」
目を伏せた水島くんの拳が胸に移動する。おもむろに開かれた手はそっと、心臓のあたりに添えられた。
「ここに、爆弾を抱えちょる」
……声が、泣いているみたい。震えていないのにどうしてだろう。水島くんが、つらそうにしているからかな。
「患っちょるようには見えんくらい明るくて元気なんに、発作起こしたときは本当に苦しそうで、怯えちょって……。でも、ずっと誰にも原因がわからんもんを抱えながら、誰より笑っちょったのは……あいつだけん」
空を仰ぎ見た水島くんの耳たぶに、決意がふたつ。
ほんの一瞬見ただけなのに、水島くんの口から紡がれる“あの子”は、わたしのイメージ通りだった。
原因がわからない発作を起こす、ということ以外は。
でも、だからこそようやく、水島くんが『どうしても今帰りたい』と言っていた理由がわかった。
「わたしね、水島くんは好きな人に会いたくて帰るのかなって思ってたの。でも話を聞いて、それだけじゃないって思った。……好きな人を救う可能性を、見つけたんだね」
それは会いたい気持ちよりも、強い想い。