水島くん、好きな人はいますか。

「わたしは大学生になったら開けるんだ」

「真面目か。さっきのことと言い、お前は本当バカだな」


もしかして気を利かせて離れた場所に立っていたのかな。


「一瞬ついに告ったかと思ったじゃねえか」

「あれは……告白だけど、告白じゃないよ」


隠す気はなかった。きっと隠していても見破られていた。


「大好きなんてふだん打ち明けないけど、みんな知ってたことでしょう?」

「……そうだな」

「わたしね、いろいろ考えてたとき、瞬との関係ってすごく贅沢だなって思ったの。幼なじみだけど、兄妹みたいでもあって、恋人に見られるときもあって……」


そんな関係がいちばんいいとは言えないけれど。


「贅沢だな、って……かたちに囚われないって素敵だなぁって……っわたし、水島くんと、そんな風になりたかった……っ」

「……なれたじゃねえか」


ぐっと頭を抱き寄せられたわたしは、瞬の胸元を涙で濡らした。


「京にとって“万代”は、“好きな人”で間違いねえよ」



水島くん……。水島くん。

わたしね、いつも胸をときめかせていたんだよ。


屈託のない笑顔に、まっすぐな優しさに、大胆な言葉に、毎日どきどきさせられた。


奔放で、たまに強引なところには困らされたけど、新しい世界が広がっていくような楽しさも覚えて。ふいに見せてくれる弱さなんかは、知るたびに独り占めできたような気にもなっていたんだよ。


水島くんとの全てが、わたしの恋だった。


好きになる前も、好きになったあとにも、そこかしこに恋と切り離せない想いが宿っている。


わたしはこれから、幾度となく思い返すんだ。

屋上に踏み込むたび、夜のコンビニに行くたび、ノートに落書きするたび、違う名前が表示された携帯を持つたびに、水島くんのこと。
< 377 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop