水島くん、好きな人はいますか。
「わたしは大学生になったら開けるんだ」
「真面目か。さっきのことと言い、お前は本当バカだな」
もしかして気を利かせて離れた場所に立っていたのかな。
「一瞬ついに告ったかと思ったじゃねえか」
「あれは……告白だけど、告白じゃないよ」
隠す気はなかった。きっと隠していても見破られていた。
「大好きなんてふだん打ち明けないけど、みんな知ってたことでしょう?」
「……そうだな」
「わたしね、いろいろ考えてたとき、瞬との関係ってすごく贅沢だなって思ったの。幼なじみだけど、兄妹みたいでもあって、恋人に見られるときもあって……」
そんな関係がいちばんいいとは言えないけれど。
「贅沢だな、って……かたちに囚われないって素敵だなぁって……っわたし、水島くんと、そんな風になりたかった……っ」
「……なれたじゃねえか」
ぐっと頭を抱き寄せられたわたしは、瞬の胸元を涙で濡らした。
「京にとって“万代”は、“好きな人”で間違いねえよ」
水島くん……。水島くん。
わたしね、いつも胸をときめかせていたんだよ。
屈託のない笑顔に、まっすぐな優しさに、大胆な言葉に、毎日どきどきさせられた。
奔放で、たまに強引なところには困らされたけど、新しい世界が広がっていくような楽しさも覚えて。ふいに見せてくれる弱さなんかは、知るたびに独り占めできたような気にもなっていたんだよ。
水島くんとの全てが、わたしの恋だった。
好きになる前も、好きになったあとにも、そこかしこに恋と切り離せない想いが宿っている。
わたしはこれから、幾度となく思い返すんだ。
屋上に踏み込むたび、夜のコンビニに行くたび、ノートに落書きするたび、違う名前が表示された携帯を持つたびに、水島くんのこと。