水島くん、好きな人はいますか。


「――万代。おい、起きろ」

「うぅん……?」


まだ暗いじゃない……わたしは二度寝する。


「起きろって言ってんだよマヨネーズ! 中身出すぞ!」

「うぷっ……」

「おいまじで出すなふざけんな! 新車だぞ!」


じゃあ腹部に裏拳かまさないでほしい。


軽くだったから『うぷっ』は演技だけど、焦る瞬がおもしろくなってきた。


「おい、嘘だろ。ちょっと我慢しろ!」


両手で口を覆い、背を丸めるわたしは、

「うっそー」

と、両手から顔を出した途端に容赦なく頭を叩かれた。


「次やったら走行中だろうが外にぶん投げるぞ」

「ハイごめんなさい……もうしません」


最初に手を出してきたのは瞬なのに、どうしてわたしばっかり負傷しなきゃいけないの。


久々に会ったというのに、相変わらずすぎる。ちょっとは紳士になってるかも、なんて、とんだ思い違いだった。


でも、隣で車を運転しているのは、間違いなく幼なじみの瞬。髪を染めていたことは知っていたけど、実際に会うと、垢抜けたというか、大人っぽくなった。


「おいなんかしゃべれ。なんもねえから眠くなってきたんだよ」

「ええ……?」


寝惚け目をこすりながら、うしろへ流れる景色を見る。


ほとんど真っ暗でなにも見えないけど、明かりがないから瞬の言う通り建物等はなさそうだ。


「あ、でもほら、東の空が白んできてるよ」

「だからなんだよ」

「……二度寝してやる」

「なんて返せばいいんだよ! 『きれいな朝焼けだろうね、楽しみ』とか言やあいいのかっ」


いやだ。瞬がそんなこと言うの気持ち悪い。


「日が昇ったら町並みがわかるでしょ」

「どうせ田舎だろ。俺はなにも期待してねえ」


田舎だって瞬に期待されても嬉しくないと思う。


言わないけど。もう負傷するのは嫌だから言わないけど。
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