水島くん、好きな人はいますか。
どこからどう見ても、水島 京(みずしま けい)くんだ。
入学式から数日後、とびきりの異彩を放って現われた転校生。
大半が初等部から持ち上がるだけの中等部は変化に乏しく、当時は彼の話題で持ち切りだった。
2年と4カ月経った今も、ある意味では彼の話題が尽きることはないのだけれど。
そんな彼――水島くんが、教室で固まるわたしの存在に気付いた。目を逸らすよりも先にひらりと手を振られる。
窓の鍵を開けてほしいようだった。
突然のことにうろたえ、思わず辺りを見回してしまう。
どうしよう。どうしよう。誰か……。
生徒ひとりの声さえ聞こえない教室で助けを求めてみても、わたしが動くしかない。
これは、不測の事態。
これは、不可抗力。
ぎゅっと宿題が詰め込まれたファイルを胸に抱き、窓に歩み寄るあいだ、心臓の音が妙にうるさかった。
「助かったー! ありがと!」
窓を開けるなり眩しいほどの笑顔が向けられる。わたしは首を横に振って、長い足がサッシにかかったことで2歩下がった。
一体どれだけ強健な身体なんだろう。すらりとした体つきからは、雄々しい行動を取れるようには見えない。
というか、どうして上から飛び降りた?のか……。
教室に降り立った水島くんはワイシャツをはらい、一瞬だけ黒板を見てからわたしと顔を合わせる。