水島くん、好きな人はいますか。
「今日、塾じゃなか?」
「え?」
「火曜日。いつも塾の日じゃろ?」
確かに今日は火曜日で、夏休みといえど本来であれば塾に向かっている時間帯。
でも、どうしてそのことを水島くんが知ってるの? それに、水島くんが方言を混ぜてしゃべるのは親しい人だけと決まっているはずなのに……。
戸惑いが顔に出ていたのか、水島くんは「あ」と呟く。
「ごめん、勝手に友達の気になっちょった」
口元に笑みを浮かべられ、頭は余計に混乱した。
「織笠 万代(おりかさ まよ)じゃろ? よく知っちょーよ」
「……えと、あの、はじめまして」
「はじめましてって! 何回かお辞儀してくれちょーこと、忘れたかやっ」
うわ、気付いてたんだ。
反応を返される前に逃げ出していたから、知らなかった。
「覚えてます……けど、話すのは初めてだから」
「そがん気もせんなあ。万代、気付くといっつもおらんけん。俺のこと避けちょるんかと思った」
「えっ……そんな、避けるとか、そんなつもりは」
「わかっちょーよ。鍵、開けてもらえたし」
窓の鍵を見遣った水島くんは流れるようにわたしへ視線を戻し、微笑む。
……本当に人懐っこいんだな。
だから、何度かお辞儀だけで済ませてきたのに。