水島くん、好きな人はいますか。
わたしは瞬に背を向けているつもりで、実はそのまま寄りかかっているんだ。
そんなのみっともないのに。
うんざりだと思っているのは瞬のほうなのに。
重くてたまらないんじゃないかと、押し退けてしまいたくならないのかと、不安を抱きながらも離れられないのは、わたしのほう。
瞬が、いつまで経っても瞬でいるから。
わたしが、いつまで経ってもわたしのままだから。
見過ごして、離れられなくて、変わらないこの関係に名前を付けるなら、やっぱり“幼なじみ”しかないんだと思う。
“家族”じゃしっくりこない。“友達”で片づけられるものでもない。だけど天地がひっくり返ったって“恋人”にはならない。
瞬がいつだって堂々としているのは、そのことをちゃんとわかっているからなんだと思う。
わかっているのに堂々としていられない小心者のわたしは、いつも瞬を苛立たせる。
「ずっとお前の味方なのは、俺くらいだ」
……違う。わたしが瞬の敵になれないから、瞬は仕方なく、味方でいるしかない。
自宅の鍵を開けていた瞬が振り返る。少し眉を寄せ、口を軽くへの字に曲げて、さげすむように見てくる。
よく笑って無駄に元気なところが取り柄なのに、いつからだろう。瞬がわたしに向けるのは、そんな顔ばかりになってしまった。