水島くん、好きな人はいますか。
・2度目の決意
1年生の夏休み前、わたしは同じ水泳部でひとつ上の先輩に告白され、付き合い始めた。そのあとすぐ、瞬も仲が良かったふたつ上の先輩から告白を受け、彼女ができた。
楽しかった時間が、だんだんと苦痛に蝕まれていったのは、夏休みが明けてからだったように思う。
外では気にならなかった視線や声が、学校にはあった。
毎朝そろって登校するわたしと瞬は、家が隣同士の幼なじみ。ただそれだけなのに、幼等部のころから続くひやかしは時に伝染して、摩擦し合って、膨張していった。
わたしと瞬は別々のクラスで、先輩たちとも階は違ったけど、意識しているものはきっとよく見えるんだろう。
合った目を逸らしたあと先輩が眉を顰めていたことや、瞬の彼女に向けられた鋭い目付きは、今でも覚えている。
瞬といると緊張した。気を遣うようになった。周りを気にすると同時に、頭には先輩の存在がちらついていた。
そんなわたしに瞬は気付いていた。だから、恋人を不快にさせるなら距離を置くべきだと伝えた。そうすれば余計ないざこざの種も撒かずに済むと思ったから。
最初は『無駄だからやめとけ』と呆れられた。それでも説得し続け、10月に入ったころ、
『譲歩はするけど、俺の信念は貫き通すからな』
と、渋々了承してくれた。
わたしと瞬は必要以上に接しなくなって、互いの恋人は以前のように笑ってくれるようになった。
だけれど人は欲深で、完全には離れないわたしと瞬にしびれを切らしたのは、瞬の彼女だった。
『本命は幼なじみ』と周囲のひやかしが残っていたせいもあったんだと思う。11月半ばのことだった。