水島くん、好きな人はいますか。
嫉妬の矛先がわたしに向けられたとき、馬鹿正直に怒った瞬に彼女も激昂し、互いに気持ちが冷めてしまった。
わたしがふられたのは、瞬が彼女と喧嘩別れしてから20日ほど経ったころ。やっぱり瞬が理由だった。
悲しくはあったけれど、涙は少しで済んだ。
それはまた瞬と……再び瞬に彼女ができるまで、なんの隔たりもなく話せると思ったから。
だけど、もしまた恋愛をして不満を持たれるようなことがあれば、できるだけ解消していこうと思ったわたしに反して、瞬は妥協する余地を捨てたんだ。
◇
A組に向かいながら何回ため息が出ただろう。
職員室前を通ったとき、こんこんと咳いたのがいけなかった。先生と目が合って、ノート返却の雑用を頼まれた。
喉はイガイガするし、ノートは重いし……勉強会をした人たちがいる、瞬のクラスだし。踏んだり蹴ったりだ。
「京どこ行くのー?」
びくりと思わず足を止める。教室からひょいと廊下に顔を出した水島くんが、「やっぱり」と笑みを浮かべた。
「え? えと、こ、こんにちは……」
「こんにちはって! なんかやそれ」
ぶはっと吹き出した水島くんが歩み寄ってくるだけでもうろたえるのに、ノートが半分持ち上げられ、いっそう頭がこんがらがる。
「えっ、そんな……!」
「重かったじゃろ? おつかれ」
どうせなら全部持っていってほしかっ、た……。
親切に泥を塗る自分に肩が落ちる。だけどこれから自分に向けられるであろう視線が、胸の中をも委縮させる。