水島くん、好きな人はいますか。
「そういえば、メール読んだ?」
ぎくりとしたのは、勉強に集中できない、とわたしの調子も訊いてきた水島くんのメールに未返信のままだから。
「すいません、その、昨日中に返信、できなくて……」
「怒っちょらん?」
「えっ!? どうしてわたしが怒るんですかっ」
「万代が集中しちょったら、俺、邪魔しただけじゃろ?」
怒ってないならよかった、なんて笑顔を見せる水島くんに、メールを無視した分だけ胸が痛む。その痛みはA組に入ってしまえば、べつの痛みにすり替わった。
教壇の周りに集まっていた瞬を含む勉強会のメンバーは会話を中断し、様々な色の眼差しを向けてくる。
「万代ー! どうしたの、先生に捕まっちゃった?」
いち早く駆け寄ってきてくれたみくるちゃんに、曖昧な笑顔しか作れない。
さっさとノートを置いて、戻らないと……。
「あはは。なんか万代ちゃんがうちらのクラスにいると、すっごい違和感あるねー。なんかウケる」
「……っ、」
「早く自分のクラス戻れ。予鈴鳴るぞ」
肩を押してきた瞬は不機嫌極まりない。その前に小さく舌打ちまでされたのを聞き逃さなかった。
これは不測の事態なのに……。違うか。わたしが思い通りに動かないからこそ、瞬はイライラしているんだ。
「この休み時間中に、返却しとくようにって……先生が」
「ああ。つーか二度と雑用なんか引き受けんな、って聞けよ! 無視か!」
「早く戻れって言ったのは瞬じゃろ……」
振り返ることなく教室を出たわたしは頭痛に眉を寄せた。