水島くん、好きな人はいますか。
「……どうしよう、かな」
中学1年生のクリスマス前、わたしと瞬はお互いが理由で付き合っていた人と別れたことがある。
一緒にいすぎるのはだめで、ふたりで登校するどころか家に出入りするのも嫌がられて、わたしはその不満を解消しようと瞬と距離を置いたけれど、うまくいかなかった。
一度試して失敗したことを、瞬がもう一度聞き入れてくれるとは限らない。それがなくとも瞬は、前の彼女と喧嘩別れしたときに妥協する余地を捨ててしまっている。
『俺は学んだ。万代と自分どっちが大事なのか比べさせようとする女子とは二度と付き合わねえ。もし付き合ったあとに言われたら、万代の存在意義を説いてやる。それでも文句を言ってくるならねじ伏せるから安心しろ』
瞬は本気だった。わたしを邪魔者扱いする女子も、ひやかす男子も、いっそう毛嫌いするようになった。
瞬は安易に自分の意思を曲げる人じゃない。
みくるちゃんやその友達が、瞬に直接不満を零す前に、なんとかしなくちゃ……。
こんなことで別れるようなふたりだとは思わないけど、きっとこの甘さが、前の恋をこじらせてしまったんだ。
同じことを繰り返しちゃいけない。
もう、わたしのことで喧嘩させたくない。わたしのせいで瞬が責められるのも、けなされるのも嫌だ。
それなら……わたしにできることは、決まってる。
今日は息抜きの日にしようとも決めたわたしのもとに、放課後、水島くんからメールが届いた。
タイトルは≪緊急救助要請≫。
本文は見ることなく、削除した。
脳裏をよぎった涙を流すリスは、水島くんじゃない。