水島くん、好きな人はいますか。
目が合ってしまうと、無視できない。
微笑まれると体が動かない。
それらは今ひときわ濃厚になって、もし話す日がきたら、と計画していたそれを無意味なものにしていた。
「あの、すいません」
逃げるに逃げられず、控えめに声をかけてから水島くんの頭を指差す。
「なんかや?」
「葉っぱが付いてます」
「え! 嘘じゃろ、かっこわるっ」
左右に頭を振る水島くんの背後では、大木がようやく落ち着きを取り戻していた。
「取れた?」
「……まだ付いてます」
「じゃあ取って」
えっ!? どうしてわたしが……!
断る理由を探している隙に水島くんは軽く頭を下げてしまう。艶のある黒髪に、葉っぱが1枚。
少しためらってから手を伸ばし、髪に触らないように葉っぱをつまんだ。
「と、取りました」
「ん。ありがと」
「……、一体どこから飛び降りてきたんですか」
「うん? 屋上。正確には屋上から4階。で、あの木に飛び移ったけん」
顔がこわばる。知ってか知らずか、水島くんは笑いながらわたしが持つ葉っぱを窓の外へ落とした。
「気付いたら屋上で寝ちょって。起きたら鍵閉まっちょるけん、ほんと焦ったが」
「……誰かに連絡して来てもらうとか」
「飛び降りたほうが早いと思わん?」
しれっと言ってのけた水島くんに言葉を失う。