水島くん、好きな人はいますか。


目が合ってしまうと、無視できない。

微笑まれると体が動かない。


それらは今ひときわ濃厚になって、もし話す日がきたら、と計画していたそれを無意味なものにしていた。



「あの、すいません」


逃げるに逃げられず、控えめに声をかけてから水島くんの頭を指差す。


「なんかや?」

「葉っぱが付いてます」

「え! 嘘じゃろ、かっこわるっ」


左右に頭を振る水島くんの背後では、大木がようやく落ち着きを取り戻していた。


「取れた?」

「……まだ付いてます」

「じゃあ取って」


えっ!? どうしてわたしが……!


断る理由を探している隙に水島くんは軽く頭を下げてしまう。艶のある黒髪に、葉っぱが1枚。


少しためらってから手を伸ばし、髪に触らないように葉っぱをつまんだ。


「と、取りました」

「ん。ありがと」

「……、一体どこから飛び降りてきたんですか」

「うん? 屋上。正確には屋上から4階。で、あの木に飛び移ったけん」


顔がこわばる。知ってか知らずか、水島くんは笑いながらわたしが持つ葉っぱを窓の外へ落とした。


「気付いたら屋上で寝ちょって。起きたら鍵閉まっちょるけん、ほんと焦ったが」

「……誰かに連絡して来てもらうとか」

「飛び降りたほうが早いと思わん?」


しれっと言ってのけた水島くんに言葉を失う。

< 6 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop