水島くん、好きな人はいますか。


「――瞬」


びくりとわたしを震わせた声。恐々と顔を上げた先には、気まずそうに歩み寄ってくるみくるちゃんの姿があった。


「なんでお前が来んだよ」

「だって気になったから……なんでそんなに怒ってんのよ。怖いわー……。万代、大丈夫?」


出しかけられた手にびくついてしまったわたしは、目を見開いたみくるちゃんから顔を背ける。


「あ、平気……だから、あの……本当に、ごめんなさい」


自分でもなにに謝ってるのかわからない。だけど大半は、瞬の彼女に対する罪悪感からだったと思う。


痴話喧嘩とひやかされる言い争いを聞かせちゃったかな。

もし聞かれていなくても、誰かから聞かされるかな。


どちらのほうがマシか、なんてことはない。


わたしはここにいちゃいけないんだ。


「おい逃げんな万代! 話終わってねえぞっ!」

「ちょっと瞬……!」


瞬は正直すぎる。廊下で怒鳴ったら、何事かと野次馬が集まるのに。意図的じゃないにしても、瞬は昔からなにも変わってないってことになる。


わたしは変わりたいんだよ、瞬。

わたしは、瞬は、きっと変わらなくちゃいけないんだよ。



1階まで駆け下りたあと、げほごほと咳が出続けて思わずその場にしゃがみ込んだ。


頭がぼーっとする。なんだかもう1歩も動きたくない。


「万代?」

「……、ハカセ」


振り返ると、聞いていた以上に白衣の似合う彼が階段を下りてきていた。
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