水島くん、好きな人はいますか。
「どこに逃げやがった!」
上階から響いた瞬の声に大袈裟なほど体が縦に揺れる。
もう来た。ど、どう、どうしよう……!
隠れる場所を探すわたしは、腕を掴まれたことで一瞬忘れていた存在を思い出す。
「こっち」
ハカセはわたしの腕を掴んだまま歩き出す。
瞬の声が1階に下りてきたころには、薬品の香りがする独特な空間に連れ込まれた。
「うん、もう大丈夫。瞬と保健室はどう考えても結びつかないしね。そのへん座ってていいよ」
ひとり納得した様子のハカセと違い、わたしはソファーに腰掛けるまで戸惑っていた。
「あの、助かりました……でも、どうして……」
「保健委員なんだ。今日は僕が当番。保健医は外出中。欲しかったら早退届あげるよ」
「そ、そうでしたか」
訊きたいことはそういうことじゃなかったんだけど……助かったし、いっか。
友達の見舞いでしか訪れたことのない保健室を見渡していると、端っこでなにかしていたハカセに呼ばれる。
「はちみつ入りのジンジャーレモンティーでもどうぞ」
「え、あ、わ、ありがとう……いただきますっ」
湯気の立つマグカップを受け取ると、ハカセは椅子に座り、ノートパソコンを操作し始める。
沈黙……なのは話すのも勉強会以来だし、気にしないけど。ハカセって本当に掴みどころがない。
確か、みくるちゃんと8年連続同じクラスなんだよね。
それくらいしか知らないな……。