水島くん、好きな人はいますか。


「ふつうだって思ってちゃ、だめなんです。だって、納得できますか? 瞬は学んだなんて言うけど……」

「万代を邪魔扱いする子とは二度と付き合わない、だっけ。まあ極端ではあるけど、瞬らしいよね」

「わたしは……瞬らしいとは思えませんでした」


思っちゃいけない。だって瞬のそれは、本心じゃない。


「……じゃあやっぱり万代は、瞬だけじゃなくて、みくるのことも避けてるんだね」


どうりで最近ふたりが変な顔してるわけだ。と、ハカセは静かに微笑む。言葉を返せず、両手で包んだマグカップの底に自分の世界を覗き見る。


紅茶に、レモンに、生姜に、はちみつ。合うからおいしくて、あたたかい。だけど生姜が嫌いな人もいるように、はちみつよりも砂糖が好きな人もいる。


不必要なものはいつだって、ひとそれぞれ。


たとえ多数決で負けたとしても、わたしにだって要らないと思うものはある。わたしだけが要らないと思っていても、譲れないことだってある。


「わたしはただ……瞬の目がもっと、みくるちゃんとか、他の人に向けばいいって思ってるだけなんです」


2年生の梅雨頃、瞬は仲のいい女友達としてみくるちゃんを紹介してきた。そんなことをされたのは初めてで、瞬が学んだと言ったのはこういうことなのかと思った。


みくるちゃんはすごくかわいかった。明るくて、すごく優しかった。瞬にとってのわたしを、わたしにとっての瞬を、否定せずにいてくれた。
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