水島くん、好きな人はいますか。
「病院行ったほうがいいよ。瞬には早退したって伝えとく。それとも伝えないほうがいい?」
黙っていたことがバレたらハカセの身が危ない。
無意識にそんなことを考えたわたしは、危なくなるほうがおかしいんだと自嘲した。
「瞬に伝えるかは、ハカセが楽なほうにしてください」
「そう自分にも言ってあげればいいのに」
「……」
浮かべた笑顔は覇気がないものだったかもしれない。
「わたしはもう充分、楽なほうを選んできましたから」
ハカセにお辞儀をし、保健室をあとにする。
……大丈夫。ちゃんと自覚してる。
わたしはみっともないほど、楽なほうを選んできた。
周りの視線に気付いていながら、みくるちゃんの優しさに甘えて、水島くんの人懐っこさに甘えて、流されてきた。
“瞬の幼なじみ”を盾にして、瞬に守ってもらっていた。
それがふつうだなんて思っちゃいけない。
――ずっとお前の味方なのは、俺くらいだ。
瞬の口癖。何度も何度も聞かされた言葉。
きっとわたしの味方でいることが、瞬の貫き通したい信念。
どうして瞬がそんな信念を曲げずにいるのかわからない。
わからないけど、ずっと思っていたことがある。口に出せなかった言葉がある。
……瞬。それは、罪悪感からくる気持ちでしょう?