水島くん、好きな人はいますか。


「病院行ったほうがいいよ。瞬には早退したって伝えとく。それとも伝えないほうがいい?」


黙っていたことがバレたらハカセの身が危ない。

無意識にそんなことを考えたわたしは、危なくなるほうがおかしいんだと自嘲した。


「瞬に伝えるかは、ハカセが楽なほうにしてください」

「そう自分にも言ってあげればいいのに」

「……」


浮かべた笑顔は覇気がないものだったかもしれない。


「わたしはもう充分、楽なほうを選んできましたから」


ハカセにお辞儀をし、保健室をあとにする。



……大丈夫。ちゃんと自覚してる。

わたしはみっともないほど、楽なほうを選んできた。


周りの視線に気付いていながら、みくるちゃんの優しさに甘えて、水島くんの人懐っこさに甘えて、流されてきた。


“瞬の幼なじみ”を盾にして、瞬に守ってもらっていた。


それがふつうだなんて思っちゃいけない。



――ずっとお前の味方なのは、俺くらいだ。


瞬の口癖。何度も何度も聞かされた言葉。


きっとわたしの味方でいることが、瞬の貫き通したい信念。


どうして瞬がそんな信念を曲げずにいるのかわからない。


わからないけど、ずっと思っていたことがある。口に出せなかった言葉がある。


……瞬。それは、罪悪感からくる気持ちでしょう?

< 68 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop