水島くん、好きな人はいますか。
「じゃあ出よ。ただの風邪でも寝ちょらんと」
歩き出した水島くんのあとについて行くのをためらう。
家まで送ってもらって、荷物まで持たせる? 許されない。これは絶対に拒絶しないと――…。
「万代ーっ? 行ーくーぞーっ!」
お、大声でなにを……!
「道わかんないからぁー! 案内をーっ、」
「わわ、わかりましたからっ」
慌てて駆け寄ると、大声を出したのはわざとなのかと思ってしまうほど水島くんはにやりとした。
策士、というほど巧妙さはないけれど。
「店出て右? 左? 家、瞬の隣じゃろ?」
「……右です」
して遣られたと思うほどには、水島くんのいたずらっ子みたいな笑顔が印象に残った。その証拠にわたしが道順を説明したのは最初の1度きりで、彼は迷うことなくマンションへ足を進めた。
そうして戸口を開けるまで水島くんに付き添ってもらったわたしは今、3回目のお礼を言っていた。
「本当にありがとうございました」
「おじゃまします」
「しなくていいです! しなくて! させません!」
ここは『どういたしまして』と言ってほしいのに!
「万代は寝ちょるといいけん」
「寝ますよ! だから帰ってくださ、」
一瞬だけ閉めようとした力が勝ったかと思えば、勢いよく戸口を開けられた。