水島くん、好きな人はいますか。
落としていた視線を上げると、水島くんはまた微笑んだ。
「言わんって。大丈夫」
「……水島くん」
「うん? ちゅーか俺のこと水島って呼んどるかや? 京でなく?」
「そこに小枝が刺さってます」
「え!? うわマジか! なんかやもーっ!」
腰に巻かれたカーディガンを解いた水島くんはひとりで騒ぎ、「見てこれ」と言う。
カーディガンの背中部分には木の葉や小枝がくっ付いていた。
もう飛び降りるようなことはしないでほしいけれど、
「次からは全身確認したほうがいいですよ」
と促しておいた。水島くんは照れくさそうにしながらも笑っていた。
教室を出ると、ついて来ていた水島くんに呼ばれる。
「アドレスと番号教えて」
万代と口にされるだけで戸惑うのに、彼は当然のごとく携帯を取り出していた。
「……えっと、わたしの?ですか」
「1回話した者は友。これ俺の鉄則だけん」
「え、はい……知ってます」
「はははっ! 知ってますってなんかや!」
「わ、笑うほどのことですか……」
そんな返しをされたのは初めてだから、と。
午後4時過ぎの廊下に水島くんの笑い声が響く。
それはわたしのうるさかった心臓の音も聞こえなくなるくらい、とてもよく響いた。