水島くん、好きな人はいますか。
はあ、と深く息を吐いた瞬に目がいく。
「あんなのは一度で充分だ」
そう言った瞬の目付きが、2年前を思い起こさせた。
「お前は、次こそはって思ってたんだろうけどな。俺だってそうなんだよ。また俺や周りに気ぃ遣って離れようとしたら、次こそねじ伏せてやるって決めたんだ」
言葉が出ない代わりに涙が滲んだ。
……ほんとだね。でも、なんて言ってる場合じゃないね。
わたしはいつまで手を引かれるのを待つつもりでいるんだろう。厳しくてもあたたかいそれを望むなら、自分で手を伸ばさなきゃ。
信じたくてもわずかな恐怖が邪魔をするのなら、振り払える強さを持たなくちゃ。
わたしが離れようとしたことで、瞬がくだらないと怒った理由。瞬がわたしの味方でいようとする理由。
自信がなくて靄がかかっていたけど、見つけたよ。
「俺は誰になにを言われようが、なにをされようが、幼なじみを失うほうが何十倍もきつい」
ぽろりと落ちた涙が、閉ざしていた口を動かした。
「わたしだって瞬のこと、守りたいって思っただけなの」
瞬を攻撃する言葉に対抗できるほど、わたしは口が達者じゃない。瞬の周りに好かれるような器用さもない。
だから今回も、他に選択肢が思い浮かばなかった。
静かに離れていくことが、わたしの精一杯だった。